2 寛文縁起の内容
寛文縁起にモデルはあるのか
 第2の謎は寛文縁起の内容にある。
 この縁起は一読してわかるように前半部と後半部にわかれている。何度も繰り返すように、権兵衛が鉄砲で白鹿を撃ち殺し、神がかりになったというのが前半の部分だが、これは縁起の作者がみずから考案した物語なのだろうか。
 先に私は寛文縁起には物語性があるといったが、このような内容の話がどこかにあって、それをモデルにして作られたものなのだろうか。それともまったくの白紙からこのような物語が創作されたのだろうか。
 次に問題にしたいのは後半の部分である。
 ここには権兵衛の姿はほとんどなく、あるのは竜爪権現のみである。寛文縁起の主役が権兵衛から竜爪権現に代わっている。縁起とは名ばかりで、まるで竜爪権現の武勇伝の趣でさえあるのだ。
 寛文縁起の本文全体が約50行として、はじめの20行は権兵衛について触れ、それ以降、最後までの約30行は、大阪夏の陣における竜爪権現の大車輪の活躍を語り、さらに徳川家康がこの夏の陣に勝つべくして勝ち、征夷大将軍になるべくしてなり、だからその家康に味方した竜爪権現を信心するならば、あらゆる災難を逃れることができるといっている。縁起としては実に巧妙にできあがった縁起である。
 これについても、縁起の作者はどこかからヒントを得ていたのだろうか。それとも、やはり独自で考案したものなのだろうか。